自在に動く

シャクティ・ヨガ・サーダナが武術を始めたのは創始から10年後の2003年のことだ。
きっかけは、先生が駐車場から自宅へ荷物を運ぶ時に、
それほど重くない荷物を「む、重たい」と感じたことだった。
先生はショックを受け「自分のヨガには何かが欠けている」と深く反省し、
体を自在に動かすためには、柔軟性だけでなく筋力が必要だと気がついた。
アーサナは身体を柔軟にして、姿勢を維持するための筋力を鍛えるけれど、
歩く、走る、持つ、などの日常動作や、早く動くための筋力は鍛えにくい。
ヨガをする人は健康で幸せでいられるはず。
健康とは、自在に動けることでもあるはず。
筋力が衰えて、自在に動けなくなるヨガではいけない。
リラックスだけでは、健康を維持できない。
その重大な事実から、先生は逃げなかった。
若い頃のように動くことを諦めて、自在を願わないこともできる。
「年相応なのだ」と諦められれば、健康の基準はいつでも変わる。
先生は46歳という年齢を理由にして、諦めなかった。
先生にとってヨガとは、可能性の追求だからだ。
こうして、先生は教室に武術を取り入れた。
僕が通うクラスでは、60代の女性が二人、華麗にヌンチャクを振っている。
その内の一人は、生徒の中でトップクラスの技術力がある。
高齢者だけのクラスでも、70代、80代の生徒が元気に武術を行っている。
先生の母親も、90代で毎日元気に正拳突きを行っている。
先生から30年以上ヨガを習っている86歳の男性が「自分の家族を守りたい」と、
ヌンチャクの練習を志願し、初歩から習い始めたこともある。
生徒と共に10年の探求と錬磨を経て、2013年には「煉神流双節棍」が出版され、
「煉神武術」という流儀体系を確立するに至った。
僕らはその技術と精神を学び、自在の可能性を追求し続けている。
年齢を重ねても、思いどおりに動きたい、その願いを諦めないために
ヨギは武道と出会う